画廊便り 2014年
11月展〈泉東臣・大沢拓也二人展―次世代を牽引する作家たちー〉
秋も深まりつつあります。耀画廊周辺は、晩秋への序曲を享受しているかのように、静けさが一層増してきております。
11月〈泉東臣・大沢拓也二人展―次世代を牽引する作家たちー〉が、今日から開催されました。作品の飾り付けが済み、作品全体に照明が当てられますと、展示室内に素晴らしい芸術空間が生まれました。
ご来廊者を迎えてくれる作品は、それぞれの大作:正面の六曲一双屏風「月下照景―光の詩―」(泉東臣作)と、その対をなす150号の「rectangle」(大沢拓也作)であります。この大作を取り囲むように風炉先屏風「四季彩」(泉東臣作)や100号「prosto」(大沢拓也作)などが、それぞれ存在感を示しております。
展示室に飾られた大・中・小の壮大な作品群(計10点)に囲まれ、作品に向かい合っていますと、不思議なエネルギーが体内を駆け巡るのを感じました。
今回の二人展の作家は共に30代です。これからが大変期待される作家達です。どうかご来廊くださり、作品をご鑑賞くださいませ。
2014年11月1日
東京九段 耀画廊主 富田光明
9月展 〈善恵展〉
靖国の杜から響き渡った蝉時雨の声もいつしか消え、いまでは時折初秋の風が、九段界隈を気儘に吹き抜けていきます。
御蔭さまで9月の〈善恵展〉が成功裏に終わり、搬出後の静まり返った展示室で、展示の日々を振り返りました。
ご来廊下さった多くの人々は、彼女の作品群に包まれ、非現実の世界と現実の世界の間を、つかの間ではありますが彷徨し、好奇心・恐怖心とが綯い交ぜになり、新たな不安感を抱いた、あの幼い頃を追体験された方もいたことでしょう。これこそがまさに〈善恵展〉の副題にもあります‘魑魅魍魎と遊ぶ’を実体験して下さったことになります。
彼女は次回の展示で、どんな世界を私達に見せてくれることでしょう。今から楽しみであります。
まだまだ暑かった9月に、汗を掻きながらご来廊下さりました皆様には、作家と共に心より感謝の気持ちでございます。誠に有難うございました。
2014年9月17日
東京九段 耀画廊主 富田光明
8月展 〈真夏の美の夢 ―若手日本画家達の演出による―〉
自然はじつに律義であります。 8月ともなりますと、日差しに7月と格段の違いが生じます。画廊の入口にある小さな花壇を飾る花々は、暑さにもめげず、真夏の太陽を心ゆくまで浴び、ひと夏を謳歌しております。
さて耀画廊8月展〈真夏の美の夢 ―若手日本画家達の演出による―〉の会期が始まりました。今回の展示は、夏季休業(お盆8月13~17日)を挟んで、前期(8.1~12)と後期(8.18~29)に二期の展示となります。展示作家は前期・後期共に11名であり、出品作品数は各期共に22点です。全作品が身近に置いておける手頃なサイズの作品です。
会期初日に、東京藝術大学大学院准教授の荒井経先生(当画廊の主要取扱作家で若手作家の助言者)がご多忙の中、当画廊に足を運んでくださいました。まず展示作品を見て「皆さん全員が気合を入れ、書き込んでいますね。いいですね。」が、開口一番のこの展示に関する批評でありました。たしかに好スタートを切りました。
今回の展示は、副題にもありますように、若手作家の作品群であり、ほとんどが30歳未満です。今回は個性豊かな集団であり、一見まとまりが無いように思えるが、しかし美を追求する真摯・誠実な姿が感じられます。それ故に飾りつけが完成したときの展示室には、なんとも言えぬ凛とした緊張感が漂っていました。最初にこのように素敵な芸術空間を独り占めできることは、画廊冥利に尽き、出品者に感謝する次第であります。
耀画廊のコンセプト「若き作家に発表の場を!」を実践した今回の展示会で、彼らの力作を鑑賞し、至福の時を味わって下さるご来廊の皆様は、これからどんな‘美の夢’を見て下さることでしょう。夢は愉しいものにかぎります。またこの展示が若き作家との素晴らしい出会いとなり、自分の好きな若い作家を育てるという‘夢’を抱いていただける機会となれが、若き作家にとって大きな励みとなり、また画廊の存在意味もあります。
ここ数日は暑い午後、蝉時雨の声、雷雨の訪れ、そして静かな夕暮れがやってきます。やがてどこからか思い出したように、花火の音が聞こえてきます。今宵はどんな美の夢が見られることだろうかと、画廊を後にして家路に向かいます。
絵画(日本画)を愛する人々へ!これから約1カ月の展示となります。皆様のご来廊を心よりお待ち申してあげます
2014.8.2
東京九段 耀画廊主 富田光明
7月展 〈招聘作家:申 銀淑の世界〉―時空への旅人―
二紀会・副理事長の彫刻家・日原公大氏(当画廊の主要取扱作家で若手作家の助言者)から要請を受け、申銀淑女史(韓国女流彫刻家会長)の日本初個展が、当画廊で開催されました。(2014.7.17~28)彼女の個展には、韓国の美大の教授で美術評論家や美大の教授で油彩画家そして映像作家以上御三方が来日し、歓迎会がホテルで盛大に行われました。
彼女は韓国女流彫刻家の会長を今春まで務め、現在は梨花造形研究所の代表者として、
後進の育成に従事しております。また日本をはじめ多くの国で講演し、幅広い活動をしながら、世界の彫刻界に貢献している活発な女史でもあります。
一年前に日原氏と申銀淑女史が耀画廊にご来廊され、展示に関して契約段階に入った時のことでした。私は躊躇せず「いま日韓関係は冷え切っており、靖国神社の御膝元の九段に位置する耀画廊で、展示会を開催することに抵抗はないのですか」と、彼女に問いかけますと「私は気にいたしません。」と、無邪気な笑顔で明るく返答してきました。この彼女の爽やかな対応で、私のそれまでの不安が払拭され、彼女の日本初個展を成功させようという気になり、開催に至りました。笑顔ほど素晴らしいものはありません。
作品の室内展示を済ませ、ひとり静かに彼女の作品全てを眺めていますと、彼女と共に自分も‘時空への旅人’となり、世俗から遊離した異空間を浮遊している錯覚に陥ってしまうのであります。しかし次の瞬間に、宇宙の創世から共生してきた人間の原点を知らされ、感性と理性との交差の不可思議な空間に包まれているのに気が付きます。
彼女の全作品の中で圧巻は、今回の個展のために制作した‘Mandala 2014’で18枚のレリーフ(左9枚、右9枚)と手印を示すvideo映像セットから構成されている作品であります。この作品の前に立つと、壮大な宇宙の‘気’に包まれ、不思議にも素直な気持ちになります。18枚のスレート(セラミック)には、曼荼羅の世界を意識しつつ、自分のアイデンティーを暗示する彼女独自のデザインが彫られています。
芸術には国境も無ければ、国家間の政情に左右されるものではありません。芸術は純粋に人間の魂の叫びを表出し、美を讃え、全ての人に平等に喜びを与えます。
2014.7.31
東京九段 耀画廊主 富田光明
五月展〈感覚の伝言〉
一か月前 桜花に包まれた画廊周辺の桜並木も、今ではすっかり若葉に
覆われ、そよ風に身を委ねております。
今月の当画廊企画展(5月2日〜18日)は、〈感覚の伝言〉と題しまして、風薫る5月に「微風の囁き。煌めく葉陰。優しき柿若葉。―どうぞイマージュの花束を!」の副題の下に、若き作家達が集い、作品を通して自己表現をしたいと願っております。
作品の搬入・飾りつけを終えて、作家達が帰った夜、静まり返った展示室内でひとり作品群と対面していますと、作品群が次のような様相を私に見せてくれるのです。
蕩けそうで蕩けない得体の知れぬ‘もの’への不可思議な好奇心、淡い光の中で彷徨う美の求道の心、これが実物だという先入観で触れ、虚を突かれた時の心地良い落差、扉の向こうの世界に想いを馳せる夢見る乙女の面影です。
どうぞご來廊下さり、作品群と対面され、心地よい対話をなさってくださいませ。皆様には作品群がはたしてどのような様相を見せてくださることでしょう。皆様のお越しをお待ち申しております。
因みに昨日は、佐藤美術館学芸部長の立嶋惠様が、本日はアート・ソムリエの山本冬彦様が耀画廊にお越し下さり、若き作家の作品をご覧になりました。
2014年 5月 3日
東京九段 耀画廊主 富田光明
三月展〈春耀の会〉
早春の光の中で、若手作家(1980年代生まれ)の作品が一段と光彩を放っております。
「春耀の会」とは若き作家の集まりであり、彼らは日々切磋琢磨し、芸術作品制作に心血を注いでおります。そしてこのように発表を重ね、多くの人々からの叱咤激励を栄養にして、自分独自の花を咲かせようと努力する、彼らの真摯な姿に感銘を受けます。
“春耀”とは‘春’を讃える作家達の心と、常に‘輝き’をと願う気持ちが一つとなり、自然に生まれ出た名前であります。
初日のオープニング・イベントは、金子朋樹氏(日本画作家)の司会で、展示作家が各自の出品作品の前で、制作動機を述べるという形式での作家トークであり、ここで彼らが自分の芸術感を語ってくれたことは、参加者にとってとても勉強になりました。
イベントの途中で、山本冬彦氏(アート・ソムリエ)と彼の友人クレア・パターン女史(フランス人研究者でフランス国立社会科学EHESS博士)の参加により、作家にとっては、いっそう大きな刺激となったことでしょう。
閉会後には、展示作家のひとりである小林智君が、3月末にシンガポールの学校に教師として赴任することになったので、画廊近くのレストランでささやかな送別会を開きました。
若者が大きな夢を抱き、前に進みゆく健気な姿を見ることは、我々にも夢が与えられて、測り知れない力となるものであります。
また新たな夢がひとつ、私に生まれました。
2014年3月 吉日
東京九段 耀画廊主 富田光明
〈新春を寿ぐ展〉
迎 春
新しき年の訪れを粛々と寿ぎ、静まり返った画廊で道行く参拝者を
眺めながら、昨年の一年間を振り返りました。
おかげさまで個展及びグループ展により、耀画廊では多くの展示が
開催されました。これも関係者そしてご来廊いただきました皆様の
ご理解とご協力によるものと、深謝申し上げます。
「若き作家に発表の場を」と願う耀画廊のコンセプトも、
徐々にご理解されつつあるように思われます。
その実例といたしまして、昨年度は開廊一周年を記念して、
8月にはアートイベント・若き日本画家、詩人そして写真家による鼎談
「絵画と詩歌―其の衝動のありか―」が開催され、
11月には日本画の若き作家4人による「件(くだん)展」、
そして昨年度の最後を飾る12月には、
二人の若き日本画・女流作家(ともに韓国留学生)による
「〈コ・コ・ニ・2人・ア・リ〉展」が開催されました。
彼らは各自の個展で個性的な作品展示を披露し、
活力に満ちた独自の芸術世界を示してくれました。
開廊間もない耀画廊が、このような若き作家と手を携えて、
厳しい芸術世界に歩み入り、彼らと共に苦楽を味わってこそ、
耀画廊の存在があるのではないかと、
自問自答する年頭でありました。今年も活力に満ちた芸術空間を
提供したいと、耀画廊は願っております。
尚 掲載いたしましたスナップ写真は、〈新春を寿ぐ展〉での
展示作品群です。
今年も素晴らしき一年でありますよう、
皆様と共に祈願したいと存じます。
2014年1月吉日
東京九段 耀画廊主 富田光明